「最近の書誌図書関係文献」制作裏話(その3)

 こんにちは。「最近の書誌図書関係文献」ならびに『書誌年鑑』編者の、有木太一ありきふとしでございます。前回、書誌の採集をどのように行っているかお話ししかけて、「機動的採集」に触れようとしたところで「次回へつづく」となってしまいました。今回はそちらの中身を。

 図書館に何の準備もしないで出かけ、手に取った本に書誌が掲載されていたらメモしてくる、というやり方を、私の用語で「機動的採集」と呼んでいます。前任編者の中西裕なかにしゆたか先生が、書誌採集で全面的にこのやり方を採られていたのですが、私はリスト方式(前回参照)ばかりやっていました。コロナ禍を機にこの方法を導入せざるを得なくなり、始めたところ、自分には案外合った書誌の採集方法であるとわかってハマりました。

 未知の図書館で採集した書誌データが積み上がっていくのは、収集家がコレクションを増やしていくのに似た快感があります。また、範囲を決めたうえで該当する図書館を全て訪れる「全館制覇」を目標とすることもできます。こちらは、四国八十八か所など遍路の趣でしょうか。最近ではどちらかというと後者を主眼に「機動的採集」に取り組んでいます。これまでに、青森県と滋賀県で市立図書館中央館ないし本館を全館制覇、三重県と奈良県のそれは残り各3館、などとなっていますが、自分が住んでいる東京周辺では案外行っていません。いずれ、全都道府県立図書館、そして全市の本館を制覇したいと思っています。多額の交通費がかかりますが、仕事に趣味的な要素を盛り込むことができれば、モチベーション維持の点でプラスの効果があるのではないでしょうか。

 図書館に入ると、まず新着図書の棚をチェック。冊数を数えたら、一冊一冊手に取ってササッと書誌の有無を確かめ、書誌が出ていたら本のISBNコードと書誌の表示(参考文献とかブックガイドとか)、始まりと終わりの頁数をメモします。メモしたものは、帰宅して真っ先にデータ入力します。過去集めたデータとの照合をISBNで行うのですが、図書館でのメモはまずここで平均4割程度ふるい落とされます。6割が残ることになりますが、採用にならない本のデータをわざと採集している場合もあり(未採集のデータを消し込むため)、「実弾」の数はさらに減ります。

 各図書館ごとで見ますと、新着図書の棚にある本の平均1割程度が『書誌年鑑』に載ることになりますが、このあたりの割合は図書館により千差万別です。少ない方の例を挙げますと、某県立図書館では、新着コーナーにあった308冊のうち143冊を見て65件のメモをしてきましたが、採用はわずか4件(4/143=2.8%)。枕を濡らす思いでした。逆に多い方では、51冊を見て15件メモしたうちの14件(14/51=27.5%)が採用になった某市の例もあります(両方とも2024年実績)。メモした件数を基準にしますと、平均3割強といったところです。上記、某県立は4/65=6.2%、某市立は14/15=93.3%、となります。

 以下は蛇足。図書館に入ってまず新着棚をチェックすると申しましたが、同時にチェックしているのが、参考図書の0類。もちろん『書誌年鑑』があるかどうかを見ているわけです。無いところばかりでガッカリしますが、たまに黒い表紙が見えますと、感謝の念を込めて合掌してきます。最近失望が大きかったのは、東海地方の某市中央図書館で、『書誌年鑑』を1980年代からずっと受け入れていたのに、2017年版をもって打ち切っていたこと。私は2018年版から『書誌年鑑』の編者となりましたが、有木なんて奴は知らないよ、ということです。東京に帰る電車の中で心の涙が止まりませんでした。逆に、猛暑のある日、東北地方の某市中央図書館で、開架室の一番奥、書架の一番下の段に置かれているのを見つけた時には、思わず「お前、よくぞここまでやって来たな」と本に声をかけてしまいました。

 つい余計なことまで書きました。次回もよろしくお願いいたします。(有)

滑川市立図書館(富山県滑川(なめりかわ)市)(2024.3.7 有木太一撮影)
田子町立図書館(青森県三戸郡田子(たっこ)町)(2024.5.9 有木太一撮影)

コメント

  1. 21gai 21gai より:

    小社ホームページ連載「最近の書誌図書関係文献」前任編者として中西裕先生のお名前がありました。

    中西先生は、元・昭和女子大学教授。小社『書誌年鑑』2004~2017年版の編者でもあります。
    一方で、日本シャーロック・ホームズ・クラブ会員という一面も併せ持ち、著書『ホームズ翻訳への道―延原謙評伝』(2009年 日本古書通信社)で第32回シャーロック・ホームズ大賞を受賞されています。(竹)

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