2025年12月、日外アソシエーツから『地方史文献年鑑2024』が刊行されました。『地方史文献年鑑』は、1997年版~2023年版まで岩田書院、白鳥舎から刊行されていた、長い歴史のある文献年鑑です。
縁あって、2024年版より日外アソシエーツが編集・刊行を担当することになりました。これを記念して、1997年版以来、長年編者を務められてきた飯澤文夫さんに、地方史への思いなど、お話を聞かせていただきました。(DB編集部・K)

なぜいま、地方史を発信するのか
(岩田書院の)岩田さん【注4】はね、研究書を作ったり論文集を作ったりも大事だけど、研究をする上で、文献の目録というのは非常に大事なツールだという意識を持っていた人なんですね。
私立大学図書館協会に書誌作成分科会というのがあって、早稲田大学の深井人詩さんが熱心に書誌づくりの必要性を訴えて、勉強会をやっておられて、1978年から私も参加しました。
深井さんは日外アソシエーツで『書誌年鑑』を始めた方ですね。
そうしたら岩田さんが、深井さんのところに、名著出版が出す全集の文献目録を、書誌作成分科会に参加している人たちに実習を兼ねて作ってほしい、という話を持ち込んできて ――それで深井さんから私に『平田篤胤全集』や『熊沢蕃山全集』の目録作りをやらないかと言われて…
いや、実は私は「歴史手帖」を毎号定期購読しているんですよ、という話から、一気に名著出版に取り込まれてしまった(笑)
――飯澤さんは名著出版に在籍されたことは……
在籍したことはないです(笑)…が、関係は深かった。
月に1回は名著出版に行って、名著出版に届いた雑誌を見て原稿用紙に書いて…月刊ですからね、200字詰の原稿用紙で200枚くらいの分量なんですよ。
間に合わないときは、自宅に持ち帰ってですね(笑)…たいへんでした。
そうしているうちに、白鳥さん【注5】が入社してきて、やがて岩田さんが独立して岩田書院を作って、白鳥さんも独立して……。
――そうこうしているうちに「歴史手帖」は終刊してしまいます。
名著出版の社長は、郷里が私の出身地の隣町の長野県箕輪町出身なんですが、偉いんですよ、名著出版で出した本は、すべて郷里の箕輪町図書館に寄付したんです。
中村安孝文庫【注6】として現在もある。
そうしたのは、ご自身の終活も考えていたんでしょうけど ――名著出版の業務縮小、「歴史手帖」の終刊などがつづきました。
岩田さんは、「歴史手帖」でやっていた目録作りを継続しないのはもったいない、といわれ、岩田書院から1997年「地方史情報」を創刊し、続けることになりました。
さらに、「地方史情報」の目録の蓄積を形にしようということで、1年分を『年鑑』にすることになり、1999年に1冊目の『地方史文献年鑑』1997年版を出したんですね。
『地方史文献年鑑』は、ただの文献目録じゃなくて、地方で活動している研究会の動向も押さえておきたい、そういう要覧みたいなものにしたい、という狙いがあった。
その年に出版物がなかったり、活動がはっきりしてなくても、団体情報だけ載せているのは、そういう意図があったから。
全国に研究団体が存在して、それも多くの在野の研究者たちが活動している、それを、私たちはしっかり見ています、というメッセージを、その方々に伝えたい、という熱い思いが、岩田さんにあり、私も共感するものがありました。
そこには、郷土研究こそが歴史研究の基礎である、という信念があります。
研究者でなくても、つたない内容であっても、郷土を愛して、郷土の発展のためにやっている活動を、ちゃんと評価していきたい、というのが「歴史手帖」であり、「地方史情報」であり『地方史文献年鑑』なんですね。
そういう思いがあって、続けてきました。
――そのようななかで、いろいろな事情から活動の継続が難しい状況になってしまいます。『地方史文献年鑑』と「地方史情報」の身の振り方というか、岩田書院、白鳥舎から別の版元を探す【注7】、という話になったとき、弊社を選んでくださった“決め手”は、なんだったんでしょうか。
信頼、でしょうか。
版元を変える、となったときに、これからMagazinePlusへの提供はどうなるんだろう、というのが気がかりでした。
――2016年ごろから飯澤さんが監修となり、弊社から本を出版されています。
深井さんが立ち上げた日本索引家協会が『書誌索引展望』を日外アソシエーツから出していたし、日外の『書誌年鑑』にも、最初のころに私は参画しているんですよ。
日外アソシエーツの前社長・大高さんも良く知っているし、元取締役の石井紀子さんとも親しくしていたし。
私の中ではすんなりと、「日外さんに相談する」という考えになりました。
でもね、日外さんだって、難しいんじゃないかと思っていました。
「地方史情報」は、なんとかね、MagazinePlusのための情報源として、やってくれるでしょうけど、『年鑑』はね、無理だろうなぁ、と。
どちらも間を空けずに刊行が続けられていることには、本当に感謝しています。
在野の地方史研究者へのまなざし
そういえば、チラシでこれは面白いなと思ったことがあって(笑)
(『地方史文献年鑑2024』のチラシを取り出す)
内容紹介のところに“飯澤氏の元に寄贈される、ごく私的な研究会刊行物”って書いてある(笑)
これがすごくいい(笑)
地方史研究団体の刊行物は、とても立派な物もありますが、私のところに送ってきてくれるもののなかには…ぺらぺらのA4両面コピー2ページの会誌とか…

今でこそ見かけませんが、手書きのものもありました。持ち寄って、コピーして、ホチキスで留めて…そういう会誌もありました。
私は、国会図書館の雑誌記事索引の採録対象になるような雑誌は、もちろん大切だけれど、こういう、本当に片々たるものにこそ、その土地の人の思いが、こもっているんじゃないか、と思っています。
そういうものこそ、拾い上げていきたいし、掘り起こしていきたい。
――会員数のとても少ない会もあるようです。
あまり知られていない、仲間内だけでやっているような会かもしれないけれど、でもこれはその地域にとって、集落にとって、その土地で生きている人たちにとって大事なこと。
生きるよすがになっているんじゃないかってことを、ま、勝手に思っているというか(笑)
これが、私がいままで続けてきた理由になっています。
岩田さんや白鳥さんも、そういう思いでやって来られたと思います。
岩田さんが2018年版で終刊を決めた時、白鳥さんが、それなら白鳥舎で引き継ぐと言ってくれたんです。男気というか、胸が熱くなりました。
岩田書院・白鳥舎時代の『地方史文献年鑑』の文献データは、研究団体が寄贈してくださる雑誌に頼っていたわけですが ――それだけでは抜け落ちているものもあります。
そこで、岩田さんが道筋をつけて、毎年、全国の道府県立図書館と、地方史資料収蔵機関、個人の方にお願いして、補充調査をしてきました。
これがなければ、30年近くもやってこられなかったわけで ――公共図書館が補充調査に協力してくださったことは、奇跡のようなことだと思っています。
もちろん、コピー代と郵送費の実費はお支払いし、献本もしましたが、本当に、感謝しきれません。
【了】
後注:
【4】岩田 博
名著出版の元社員。のちに出版社・岩田書院を起こし、日本史や民俗学分野の専門書・学術書を刊行。 『地方史文献年鑑』1997~2018年版を発行
【5】白鳥 聡
名著出版の元社員。のちに白鳥舎を起こした。『地方史文献年鑑』創刊からデータ入力、編集を担い、2019~2023年版を発行。
【6】中村 安孝(1926年-1990年)
名著出版創業者。
Wikipediaより:
長野県箕輪町図書館には中村氏の寄贈による「中村安孝文庫」があり、名著出版の出版物のほとんどを所蔵している。所蔵は約1,600冊。
【7】2024年、白鳥舎の活動停止にともない、日外アソシエーツに『地方史文献年鑑』と「地方史情報」の刊行の継続について打診があった。
『地方史文献年鑑』は2024年版から日外アソシエーツが刊行(2025.12刊)、「地方史情報」はweb版として継続刊行している。
これ以前から、『地方史文献年鑑』の既刊データのMagazinePlusへの提供などの縁があった。


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