能登を訪ねて 3 珠洲市

 7月27日は珠洲すず市にある「さか本」という旅館に宿泊しました。
 珠洲市では下水道の復旧が進んでいないと聞きました。市の下水道管が復旧しても、私有地内の下水道管の工事が進まないという事でした。しかも私有地内の工事費は所有者の負担だといいます。「さか本」は元々敷地内の天然の井戸水を使い、敷地内の浄化槽でろ過して下水を処理して営業してきたので、地震後比較的早期に営業が再開できたそうです。

 「さか本」を辞した我々は見附島みつけじま周辺に向かいました。更にそこから宝立町ほうりゅうまち鵜飼地区に移動しました。山田健太先生(専修大学)曰く、このあたりは震源域で地震と津波などによって最も大きな被害を受けた地域だということでした。
 潰された家々、傾いた電柱、道路に飛び出したマンホールなどなど、現実ではなく、映画のセットかなにかではあって欲しいと願いたくなるような光景が広がっていました。

 次に珠洲の商店街を目指しました。「さか本」の若女将に「いろは書店」さんが頑張って営業しているのでぜひ寄ってみてください」と言われたのでそうすることにしました。
 商店街は閑散としていました。ほとんどの店舗が店を閉じていました。そんな中、「いろは書店」さんは一見ポップな印象の店として開いていました。中に入ると、雑誌、書籍、コミックがきれいに陳列されていました。奥様に聞くと「教科書販売があるから」と3月には営業を再開したとのことです。でもこの場所…と尋ねると、「そうです。元々はタクシー会社の車庫だったんですよ。元の店は通りの反対側にあって倒壊してしまったんです」とのことでした。能登地震関連の報道写真集を購入させて頂き店外に出ました。すると片づけをしていたご主人がいらっしゃいました。随分と洒落た店構えですねと聞くと、「息子がこんな風にしてしまったんですよ」と笑っていました。

 「いろは書店」をあとにした我々は珠洲市民図書館に向かいました。こちらの図書館は2019年3月に開館した新しい図書館です。遠目に見た限り被害を受けた印象はありませんでした。館内に入りましたら館長さんが対応してくれました。建物の被害は少なく、天井の隅の一部がはがれ落ちた程度だったそうです。ただ書庫は移動書棚などに不具合が生じたとのことでした。そして困ったのはトイレで、いまは一部が復旧したそうですが、それまでは仮設トイレに頼らざるを得ない状態だったそうです。
 「下水道でお困りの方が多いそうですね。そういう方はどうされているのでしょうか?」と尋ねると、「そういう方は避難所で生活され、抽選に当たると仮設住宅に移ります。実は私もつい先日、当選しまして、ほらそこの仮設住宅に移ったところなんですよ」とおしえてくれました。

珠洲市民図書館

 今回の旅では様々な人と話をすることができました。居酒屋の方、道の駅の売店の方、図書館でお勤めの方々、新聞販売店の方、宿で一緒になった若者達などなど。そんな中でも印象に残っているのが「さか本」のご主人の言葉です。
 「被災地を見て回ることを不謹慎だとか思わないで欲しい。見て、写真に撮って帰ってくれればと思う。ここで起きたことは日本中のどこで起きても不思議ではないことばかり。他人事だとは思わないで欲しい。そして各地で備えてもらえるように」と。

 能登の方々は淡々と平静にユーモアとウィットに富んだ方々ばかりでした。またいつか訪れて、ゆっくり話をお聞きしたいと思います。(青)

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