6月新刊『特選落語 SPレコード文句集成』

 2024年6月刊『特選上方漫才 SPレコード文句集成』の続刊『特選落語 SPレコード文句集成』が出ました。今回、厳選した100題の上方・東京の落語演目の文句カードを集めて演者の没年月順に並べて復刻しました。前回の「上方漫才」編はオーソドックスに演者の50音順でしたが、本書はほぼ演者の活躍年代順と言えるでしょうか。時代の変遷を意識した、編者・岡田則夫先生のコダワリです。勿論、演者索引から50音順に噺家を引くこともできます。

 “文句集”というのはあまり耳馴染みがないかもしれませんが、今で言うところの“歌詞カード”的なものです。一般にレコード=音楽主体と思いがちですが、SPレコードが流行った大正・昭和期は音楽に限らず、落語、漫才、講談、映画説明、選挙演説、街頭インタビュー等々、実に様々な音源がレコード化されていました。SPレコードの持つ史料性について、某ワークショップで表現された「言葉の保管庫」とは言い得て妙です。そして、レコードに吹き込まれた詞章(内容)を正確に文字起こししたもの、それが“文句カード集”なのです。以下、編者による解説から少し抜粋します。

「文句カード」とは、レコードに録音された歌詞や言葉などの詞章を活字化した印刷物である。初期のSPレコードには録音が不完全で、文句が聴き取りにくいものもあり、そういう時の便宜を図るために考えられたものであろう。(略)

レコード店ではレコードの本体、紙製のレコード袋、そして文句カードの3点をセットにして販売していた。

カードといってもハガキのような厚紙ではなく、新聞紙や書籍の本文用紙位の薄紙が用いられた。裏の活字が透けて見えるような、ごく薄いペラペラの紙に印刷されたものも多い。(略)

文句カード1頁の寸法はタテ約19.5㎝、ヨコ13.5㎝が各社標準寸法で、稀に大判のものもあるが普及しなかった。戦後の用紙不足の時代にはタバコ箱位の小型判もある。 文句カードの体裁は、詞章の文字数が少ない場合はペラ1枚、落語や漫才や映画説明や演説のような文字数が多くなる場合は二つ折り4頁、8頁と増えていき、二つ折りに1枚差し込んで6頁にすることもあった。

 率直なところ、文句カード集の原本はあまり状態がよろしくないものが多いです。そもそも粗末な薄紙の付録印刷物で、レコード袋から出し入れしているうち破損したり、散逸したりしてしまい、レコード盤本体に比べて長期保管には向かない消耗品と言えます。

 落語レコードについては、およそ200人の落語家・音曲師が録音し、約4,800枚のレコードが発行されたそうです。編者はそのうち約3,500枚を所有されていますが、文句カードが揃っているレコードは、実に半数以下だそうです。

 これまでも文句カードの原稿を流用して、種目別に編集した単行本が各社から発売されましたが、今、令和の世に落語の文句カード集を(生原稿から)復刻出版する意味合いは、以下の岡田先生の解説に表されています。

演者の顔写真が添えられている文句カードもあるが、これは大変貴重である。(略)

落語の文句カードは発売に間に合うようにテスト盤を聴いて文字起こしをしたものと思われる。文字化された落語の文句は、想像する以上に忠実に再現されている。上方弁も標準語に直さずそのままである。落語には語呂合わせの洒落や俗語が頻繁にでてくる。早口の口上や、地名や人名、店名などの固有名詞も多く出てくるが、このような語句も、かなり正確に活字化している。

 江戸・明治生まれの少なくない噺家の“話し言葉”を活字化した言語資料(コーパス)として、文句カード集は極めて有用と言えるのはないでしょうか。また、当時の噺家の貴重な顔写真が添えられた文句カードを意図的にセレクトしましたので、演芸史研究上の史料価値も高いと思います。目次に[写真]表記のあるページを開くと簡単に辿ることができます。

 本書は、日本語研究者向けの一次資料という位置づけです。ぜひ、大学図書館・資料室・研究室に一冊配架ください。(竹)

SPレコード付録の落語文句カード(生原稿)
三遊亭金馬柳家権太楼立花家花橘
三遊亭金馬(3代目)柳家権太楼立花家花橘
柳家小三太柳家金語楼柳家金語楼
柳家小三太柳家金語楼柳家金語楼
特選落語 SPレコード文句集成
 岡田則夫〔編〕 B5・550p 2025.6刊
 定価33,000円(本体30,000円+税10%)
 ISBN:978-4-8169-3057-7
 チラシはこちら

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