「人間を幸福にしない日本というシステム」(カレル・ヴァン・ウォルフレン著 篠原勝訳 毎日新聞社 1994)という本があります。この本が刊行された1994年当時、バブルがはじけ、若いサラリーマンだった私は、閉塞感に包まれていました。先輩社員とその本の宣伝を眺めながら、書名の<日本>を当時勤めていた会社に置き換え、「まさにですね」などと力ない笑いを浮かべていました。
ということを急に思いだしました。
なぜ思いだしたかというと、当社より発売された「幸せな図書館の設計図」(淺野隆夫著)について書こうと思ったからであります。
さて、淺野さんであります。

淺野さんと話していると「幸せ」というフレーズがよく飛び出します。例えば淺野さんが初代館長を務めた札幌市図書・情報館には『はたらくをらくにする』と大きく書かれたボードが飾ってあります。その意を尋ねると、
「身近な人を幸せにしたいじゃないですか。図書・情報館はオフィス街にあるのだから、そこで働いている人たちを幸せにするにはどうしたらいいか、つまりそれは『はたらくをらくにする』ということじゃないかとおもったのですね」ということでした。
「幸せな図書館の設計図」の“帯”をどうしようかと関係者で相談しているときにもこんなことがありました。淺野さんは「図書館は、人をもっと幸せにできる」という言葉を薦められたのです。最終的に帯は「図書館はもっと自由に、もっと面白くできる」となったのですが、淺野さんはちょっと無念そうでありました。
あのとき淺野さんから「幸せ」を奪った私たちは、淺野さんを少しばかり「不幸せ」にしたのかもしれません。ゴメンなさい。
映像教材の「図書館のビジョン 第1巻 札幌市図書・情報館」撮影の際、私は現場にいました。普段、図書館に足を運んだことがないと言っていたカメラマンが、図書・情報館を隅から隅まで撮影しながら、
「オレの街にこういう図書館があったら幸せだろうな」とつぶやきました。
まわりにいたディレクターや音声もうんうんと頷いていました。
図書館建設の構想を立てるときに、その図書館が建つ周辺の人たちを幸せにするんだと考えてくれる人がいることは幸運だろうなと思いました。
さて「幸せな図書館の設計図」です。ここには利用者を幸せにすることを忘れず、諦めず、前例やときには常識を脱ぎ去り活動した淺野さんと仲間の司書たちの活動が記録されています。恐らく気持ちがあれば誰でも真似できるのだと思います。しかしもっともハードルが高いのは、そういった気持ちを持てるかなのでしょう。
「人間を幸福にしない日本というシステム」は当時ベストセラーになりました。その後も版元を変え文庫本が刊行されています。どうしたら幸せになるのかよりも、どうして今が不幸せなのか解明する書を喜んで読む人が多いのでしょうか。日本人は悲観的なのかもしれません。バブル後の閉塞感と近いものが現在もあるような気がします。
でもそんな時だからこそ、人を幸せにするために奮闘する人たちの本を読みたいと思います。 幸せをもとめに図書館に行ってみたいと思います。(青)

ブックディレクター 幅允孝さんからの推薦文
私が公共図書館づくりに深く関わるきっかけが、札幌市図書情報館での淺野さんとのお仕事でした。正解のない図書館づくりの正解のなさを「不安に思う人」と「楽しめる人」の2者がいるとしたら、淺野さんは間違いなく後者です。人と情報の接点が著しく変化する現代、図書館をつくる意味と意義を柔軟に、冷静に、愛をもって考えている方だと思います。
<著者略歴>
淺野隆夫
札幌市図書・情報館初代館長。テーマ配架や「貸出しのない図 書館」など、従来の常識にとらわれない新しい図書館づくりを実践。これまで神戸市、広島市、長岡市などの図書館づくりに携わり、現在は北九州市、長与町、厚真町をはじめ、全国の自治体で図書館・文化施設づくりや読書活動を支援する。総務省地域情報化アドバイザー、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター客員研究員。北海道武蔵女子短期大学・札幌国際大学非常勤講師。
「幸せな図書館の設計図」
淺野 隆夫〔著〕
四六判・230p 2026.9 日外アソシエーツ刊
定価2,420円(本体2,200円+税10%)
ISBN:978-4-8169-3117-8
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